『スピノザの世界』

上野修著、講談社現代新書、10月21日に読み始めて今日読了しました。

p36 最大の強度の欲望とは何か。それは、より強い存在になりたい、より完全になりたいという欲望であるとスピノザは考える。自分がより弱く、より不完全になるとわかっていて、そのことをすすんで欲することはできない。どんなにひねくれた考えの人でも、まさにそのひねくれた考えによって自分をさらに強く肯定しようとしている。自分の本性よりもはるかに力強い、そういう完全な本性が何なのか中身がわからなくても、この欲望の真実は曲げられない。

p149~150 『エチカ』は人間の感情と行動を説明しながら、その説明そのものにゆるしの効果があることを実地に教える。そういう倫理書なのである。というわけで、「神あるいは自然」でもって事物や感情が説明できればできるほど、悲しみはそれだけ除去され人生は強く、愉しくなってくる。この喜びが「神への愛」なのだよとスピノザは言う(第5部定理15)。なんじ神を愛し隣人を愛せ。これは宗教の教えだが、スピノザはそれを命令形から解き放ち、理性の公然たる愉しみとしてよみがえらせるというようなことをしているのかもしれない。

p164~165 スピノザの倫理はひとことで言うと「強さ」の倫理である。「強い人間」(vir fortis)― ―スピノザは自由な人間をそう呼んでいる ― ― は、勇気とおうようさでもってゆるしてやるだけの器量がある。一切が「自然」の本性の必然性から出てくると考えるので、不愉快なことも恨んだり気に病んだりしない。そして他人のためにでなく自分の大いなる欲望のために、憎しみ・怒り・ねたみ・嘲笑・高慢といった有害な感情を遠ざけることに努める。そういう人間はいつでもできる限り正しく行おうとするが、だれかに言われてでなく自分の愉しみでそうするのである(第4部定理73の備考)。

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